Webinar
3週連続Webinar 「HFNC治療の実際・プロトコル作成の重要性~各施設の取り組み~」(2021/12 3週連続開催)第2弾
「HFNC治療の実際・プロトコル作成の重要性~各施設の取り組み~」と題した、3週連続のWebinarを開催いたしました。神奈川県の臨時医療施設、信州大学医学部附属病院、仙台市立病院の医師・看護師の方々に、これまでのコロナ診療を振り返りながら、HFNC治療の成功因子のひとつとなったプロトコルに関して、各施設より実践内容と工夫をお話しいただきました。
オンデマンド配信動画や、ご視聴いただいた皆様からいただいたご質問への回答を掲載しております。
「高流量式鼻カニュラ酸素療法(HFNC)運用フローの作成 ~COVID-19感染症に対する長野県内での取り組み~」信州大学医学部附属病院 集中治療部 助教(診療)市山崇史先生「コロナ患者へのHFNC治療対応の工夫について~看護師の視点より~」集中治療部 看護部 慢性呼吸器疾患認定看護師 飯田英明氏
市山先生には、COVID-19治療でのHFNC療法について ①HFNC療法に関する考え方の変遷、②自院での診療状況、③長野県のHFNC整備の取り組み、④現場での使用を促すHFNC運用フロー案の作成についてお話をいただきました。エアロゾル感染への懸念への取り組み、HFNC運用フローの整備、コストの面での考え方など、詳細にご紹介いただきました。
飯田看護師には、HFNC導入における感染対策の取り組みをご共有いただきました。また、臨床現場での具体的な課題と対応について実例を踏まえながら、患者忍容性への細かな配慮が治療継続の鍵となることをお話しいただきました。
ご質問と回答
- COVID-19呼吸不全におけるHFNCの位置づけを教えてください。
- 低流量酸素療法と挿管人工呼吸管理の間と考えて良いかと思います。通常疾患ですと、HFNCと挿管人工呼吸管理の間にNPPV(非侵襲的人工呼吸器)があるかと思います。COVID-19ではNPPVも安全性は大丈夫という報告もありますが、装着が上手くいかない場合に付け外しの頻度が増え、非常に管理が煩雑になる事が予測されます。ですので、無理にNPPVを使用するメリットは少ないと考え、HFNC 40L/分 60%で保てない場合に、挿管人工呼吸管理を検討するようにしています。
- 重症患者の管理方法について教えてください。
- ①挿管患者
鎮静:プロポフォール+プレセデック(RASS-2~1の範囲内)
鎮痛:フェンタニル
筋弛緩薬はほとんど使用していません。ECMOの患者で1日~2日使用しましたが、著明な効果はありませんでした。深鎮静は行わず、毎日自発覚醒トライアル(SAT)を施行し、早期離床も行いました。
②栄養
気管内挿管と同時に胃管を挿入し、胃への留置が確認できれば、高タンパク消化態栄養剤(ペプタメンAF)を10mL/hから開始、24時間持続投与。翌朝まで問題なければ、1日毎に10mL/hずつアップして、目標カロリーまで増やします。抜管後は、経口摂取を平行してすすめて、食べられそうであれば、胃管を抜去します。
③薬物療法
HFNC装着時、もしくは他院搬送症例で即挿管を要する場合は、そのタイミングでステロイドパルス療法。mPSL 1000mg 3日間。以降 250mg、125mg、80mg、 40mgと2日毎に漸減で総投与期間は11日間。
レムデシビル:初日200mg 以降、100mg 9日間投与
トシリズマブ:400mg投与
バリシチニブが適応承認されましたが、当院にはバリシチニブ使用後も呼吸状態が増悪した患者が搬送されることもあり、その症例にも上記治療が効果を認めたため、使用を継続しています。トシリズマブは現段階では適応外使用にはなりますが、同意書を取得し投与しています。
予防的抗菌薬として、抗炎症作用も期待してアジスロマイシン500mg 3日間投与。抗凝固薬としてはヘパリンを当初治療用量、APTT 1.6~2.5を目標に増減していましたが、10000単位の予防量投与で良いというエビデンスが出てからは、血栓が確認されたり、Dダイマーの上昇が無い限り、ヘパリン10000単位投与の方針となりました。ナファモスタットは5例ほど使用しましたが、しっかりとした抗炎症治療が入れば、なくても改善する事が分かったので、今は使用していません。
腹臥位に関しては、長時間腹臥位がまだ安全に実施できていない施設であるため、P/F比が80をきる症例では4時間程度の腹臥位を試みています。1例は非常に効果を感じ、救命できましたが、ECMO使用の2例は出血のエピソードで中止になりました。前述のしっかりとした抗炎症治療がP/F 比が100以下になる前に入れば、長時間腹臥位やECMOが必要となることはないのではと私は考えています。
- コロナ回復期のリハビリ・呼吸循環の評価について、当院では心リハのノウハウを一部取り入れ手探りで独自にやっていましたが、貴院ではどのような対応をされていたのか、基準があるのかなどを教えてください。
- 当院のリハビリスタッフに確認しましたところ、以下のような対応でした。感染管理の問題で特殊な機材は持ち込めないので、心電図モニタ、酸素飽和度モニタを基本にしました。それ以外は、呼吸数や呼吸パターン、Borgスコア、を指標としましたが、Borgスコアはハッピーハイポキシアの影響か自覚的疲労度が反映しにくい印象だったので、トークテスト(少し話しながら実施して、息切れが生じた所を無酸素性作業閾値として評価)なども観察していました。また、当院はコロナ急性期のリハビリなので、回復期と少し乖離があるかもしれませんが、リハビリに際し下記基準を参考に実施をしておりました。
COVIDに対する呼吸リハ実施の基準や内容
具体的な中止基準など(エキスパートコンセンサス)
- 透析患者、移植後患者の情報ありましたら、教えてください。一般の方よりどちらもかなり死亡率が高いと伺っています。
- 当院へは透析患者の搬送はありませんでした。長野県内の透析患者症例の情報を少し聞けましたので、簡潔に提示します。
ケース1
50代、男性、中等症Ⅱ、PSL 0.5mg/kg+ヘパリンで加療開始も解熱せず、PSL 1mg/kg (80mg/body)に増量し改善し退院。
ケース2
50代、男性、中等症Ⅱで入院。透析患者でありレムデシビルの使用は難しいと考え、ファビピラビルとデカドロン6mgで加療開始したが、 改善が悪くトシリズマブを使用し改善。
いずれも第4波までの症例です。透析患者に使用できる薬剤で、適切な時期にしっかりとした抗炎症治療が入れば改善するのではと考えています。透析患者で安全性が担保されていないので薬剤が使えないという制約で、死亡率が高くなっている可能性を考えます。移植患者の症例は無症状・PCR陽性もしくは軽症例の話を外来レベルで聞いたことはありますが、入院症例はありませんでした。
- HFNCの特徴として食事ができるなどが挙げられますが、高流量にした場合、誤嚥のリスクはないのでしょうか。ある場合は、何Lぐらいから注意が必要なのか教えてください。
- 健常なスタッフがHFNC装着中に水を飲んでみたことがあります。30L/分では問題ありませんが、40L/分以上からはやはり飲みにくい感覚は出ます。これが、高齢者や状態の悪い時になると、誤嚥のリスクは増えるかもしれません。 当院の症例では、30L/分では75歳以上の高齢者でも誤嚥は特に問題になりませんでした。もともと嚥下に問題ない患者さんだったからかと思います。40L/分でも40~50代では大きな問題になりませんでした。50L/分以上では使用していません。 >厳密でなくても良いので、HFNC装着下で水分をとってもらい、むせがない患者さんは問題ないと思いますが、もしむせがある場合、食事の時は20L/分に下げ、FiO2が92%程度が担保できるようにし、終了後に戻すという対応でもいいのかと考えます。
- 離床負荷と肺保護(P-SILIなど)について教えてください。
- 離床の負荷はびまん性肺疾患の患者と同じではないかと考えます。肺拡散能の障害に伴い労作時の酸素飽和度低下があるので、労作時のFiO2はあげました。 非常に呼吸が大きく、さらに回数が多い患者でP-SILIのリスクがあるようですが、十分な抗ウィルス薬と抗炎症治療をしっかり行って、HFNCを使用すれば、自発呼吸による肺障害を来すような強い呼吸をしている患者はいなかったように思います。 従圧式で駆動圧やPSを1にしても、10mL/kg以上の1回換気量を示す症例はありました。ただ、呼吸自体は大きいですが、それほど早くなく、その症例に対してP-SILIを考慮して深鎮静、筋弛緩を行う必要はないのではないかと考えました。
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