加温加湿研究会 2022.Spring / 在宅呼吸管理加温加湿 ~院内から在宅へ~

2022年5月27日(金)に開催されました加温加湿研究会、各講演の当日の質疑応答は以下よりご覧いただけます。

「在宅ハイフローセラピーに向けて 再考する 加温加湿論」

公益財団法人 田附興風会 医学研究所 北野病院 呼吸器内科 副部長 北島 尚昌 先生

在宅HFNC療法において医療機関から退院のタイミングはどうされているかご教示ください。
臨床試験では純粋にHFNC療法のみの導入でしたので、当院では1-2泊の入院をお願いしました。機器を一晩装着でき、機器の取り扱いができた時点で退院してよいと考えます。
在宅での加湿チャンバーや熱線入り回路・注射用水の経済的負担はどうされているかご教示ください。
業者様とレンタル契約を結ばれている場合は、レンタル料の中にチャンバーや熱線入り回路等の定期交換資材や鼻カニューレ等の消耗品が含まれていることが多いと聞いています。詳しくは業者様までお問い合わせください。 myAirvo2ではリユーザブルチャンバーを使用することで加湿用水として飲用可能な水道水を使用することが可能です。
在宅での加湿チャンバーや熱線入り回路・注射用水の経済的負担はどうされているかご教示ください。人工呼吸器を必要としない気管切開の患者さんへの加湿はどうされているかご教示ください。
基本的には、人工鼻を使用します。喀痰が多い方でHFNC療法の気管切開用のインターフェイスで管理したことがありますが、喀痰の管理に関しては、非常によかったです。
在宅HFNC療法においてチャンバー内の水の持ち時間をコントロールするために、トータルFlowや加湿温度はどう調整されているかご教示ください。
これまでの経験では、患者の忍容性を優先しており、そこまで調整を必要とした方はいませんでした。ただし、地域や住環境では必要になってくるかもしれないと考えます。
在宅HFNC療法使用患者さんの歩行能力や日中の過ごし方はいかがでしょうか。
臨床研究においてHFNC療法は夜間のみの使用でしたが、増悪頻度を減らしました。終日HFNC療法とすると、行動範囲が小さくなりADLの低下につながってしまう恐れがあります。個人的には、日中は従来のHOTで活動的に過ごしていただくことが最も良いのではないかと考えます。

「在宅訪問から見える 加温加湿の課題」

社会医療法人 中信勤労者医療協会 松本協立病院 看護部 
慢性呼吸器疾患看護認定看護師 大澤 拓 氏

NPPVの加温加湿について質問です。当院では加湿用水や加湿容器の汚染を懸念し積極的な加湿は行っておらず、室温を上げて飽和水蒸気量を高く保つことを第一選択としております。在宅にて患者が清潔な加温加湿器、加湿用水の管理ができない場合、室温のみでの調整を行うことはありますでしょうか。またその場合推奨される室温はございますでしょうか。加湿する場合、加湿用水の交換頻度、加湿容器の洗浄頻度等もご教示ください。
ご質問ありがとうございます。おっしゃる通り、容器や水の汚染については注意が必要です。当院では室温のみでの調整ということは行っておりません。地方の高齢者医療が中心ですので、高めの室温ですと脱水や熱中症の懸念があるということもあります。また、そもそも自分が快適と感じる室温で調整されていますので、なかなかこちらで設定できるものでもありません。また、もともとの居室の湿度環境に大きく左右されてしまいます。そこは洗濯物の室内干しや加湿器で対応頂くとしても(加湿器にも感染管理上の問題があります)、推奨室温とすれば体感との兼ね合いから27-28℃くらいまででしょうが、絶対湿度で考えれば、体内の半分くらいだと考えます。加湿における加湿用水の交換頻度ですが、普段は継ぎ足しでやって頂いています。機器と一体型ですとユニットを個別に洗浄できますので、一週間に一度、洗浄と乾燥(この週に一度の乾燥が重要ですね)をお願いしています。訪問看護師にお願いして洗浄をして頂いている方もいます。外付けですとチャンバーの交換頻度との相談になりますので、プロバイダーが可能な範囲ということになります。当院では複数プロバイダーで回路交換時(定期的におよそ1か月に1度、他は観察の様子で適宜)にチャンバーも交換しています。
患者さんの高齢化に伴い認知症(ご本人、介助者含め)が課題になるかと思いますが、認知症への対応はどうされていますでしょうか。また、新たに在宅でのHFNCに取り組もうと考えている施設へ向けて、どのように最初は取り組んだか、またそこからどのような点を注意すれば良かったかなど工夫したことがあればご教示ください。
ご質問ありがとうございます。認知症への対応はとても苦慮しています。支援可能なキーパーソンにお願いするしかありませんが、同居であるのか別居であるのか、日中在宅されているかどうかなど、個別に検討が必要です。それぞれの支援者の可能範囲に合わせて機器の使用時間や管理の方法を検討します。加湿ユニットの洗浄は訪問看護師にお願いしている方もいます。もともと自己管理していた方が認知症の進行によって管理困難となった場合には、病状や治療効果、予後予測なども含めて総合的に判断して治療を撤退することもあります。自己管理できない治療の継続をするために入所施設を退去しなければならないような状況もありますし、その方にとってどちらがベターか、何がクリティカルな問題となるかという判断が必要になります。新たに在宅でのHFNCに取り組むご施設では、まずスタッフ全体への治療法の周知・啓発が重要だと思います。コアスタッフが時間外も含めていつも対応できる訳ではありませんので、慣れないスタッフが臨時対応しなければならない場合でも対応できるような体制をつくる(緊急連絡先の設定など)ことが重要です。相談が行きそうな場所にあらかじめ根回しをして、関係部署でトラブルにならないようにしたいです。特に実際に現場で対応する看護師たちへの学習会は充分にやるべきでしょう。また、発表でも申しましたが、在宅で支援にあたるスタッフがすぐに病院に相談できるような窓口の整備は必須と考えています。導入時には、自宅環境の評価、動線の確認、電力量のシミュレーションもしておいた方が良いでしょう。当院では、特に酸素出力等の問題が無いか、退院前に自宅で試運転をしています。

「在宅人工呼吸における加温加湿を考える ~課題と現実~」

公立陶生病院臨床工学部 技師長 春田 良雄 氏

ウォータートラップがない閉鎖式回路で結露が溜まった場合、回路を解放して排出することが困難なため、仕方なくチャンバーに戻している現状があります。汚染や感染源にならないかが気になっているのですが、適切な対処方法があればご教示ください。
ご質問ありがとうございます。私も以前は同じような疑問を持っていました。この問題の回答は、基本的に吸気側に貯留した結露はチャンバー側に戻すことになります。しかし、吸気側であっても患者さんの痰が入り込む場合があります。感染源になるに関してですが、まず、水蒸気は細菌の大きさの1/10000と小さく、水蒸気に細菌が混じり込んで吸気ガスとしてチャンバーから移動することはありません。また、チャンバー内の水の温度は50℃以上になり、細菌は死滅又は不活化し、ウィルスは変性を起こし感染力が無くなります。ただし、自分でも経験がありますが、痰が入り込むことでチャンバー内の水が汚れ濁ることがあり、外見上気分が良いものではありませんので、このような状態の時にはチャンバー交換をお勧めします。
呼吸器を必要としない気管切開をした患者さんに対しての加湿をどうするかをお聞きしたいです。気管切開されている患者でダイレクトコネクターを使用している場合も含めてご教示ください。
ご質問ありがとうございます。呼吸器を使用しない気管切開患者の加湿ですが、酸素化などを考慮せず、加湿のみで考えますと、インスピロンを使用して気管切開チューブに小型のマスクを使用して加湿をしていました。近年はHFT(高流量酸素療法)を使用して気切用ダイレクトコネクターで気管切開チューブと接続して加湿を行っています。しかし、HFTの場合はコストの面も考慮して使用しなければいけません。また、酸素化が必要な場合は、インスピロンやHFTの吸入酸素濃度を調整しながらの加湿になります。
院で初めて在宅呼吸器管理を行う事になったのですが、生後10か月の気管切開を行っている患者さんの加温加湿器管理に関して質問です。

使用物品等:
・呼吸器 フィリップス社製 トリロジーEvo
・加温加湿器 MR850 
・回路 インターサジカル社のISディスポ回路(パッシブHW(F25))

一日に注射水を2L消費するほど回路内結露が多く、呼気ポートから漏れ出ると推測される水で洋服が水浸しになるほど結露対策が必要であったため、加温加湿器をMR810へ変更したところ、注射水の使用量が約500mlにまで減少しましたが、加温加湿器を変更した翌日、気管切開チューブが詰まりかけているのが、偶然、加温加湿器交換の翌日が気管切開チューブ交換日だったため発覚しました。 加湿不足疑いのため、MR850へしましたが、やはり結露が多くなり一日の注射水の使用量は2L前後となりました。対策として回路にスリーブを巻くようにしていますが、他に有効な手立てをご教示ください。
ご質問ありがとうございます。「一日に注射水を2L消費するほど回路内結露が多く、呼気ポートから漏れ出ると推測される水で洋服が水浸しになるほど」とありますが、やはり、パッシブでMR850を使用すると呼気ポート辺りに結露が出てしまいます。10カ月と言う事もあり、たぶんアクティブでは同調しない症例かと思います。当院でもパッシブでMR850を使用している患者さんの場合、結露が多く呼気排出口の下に小型の吸水パッドを敷き、その上にタオルをおいて結露を吸わせています。しかしながら、タオルは濡れていきますので室温にも左右されます。また、気切により感覚が異なりますが、適当な間隔で介護者の方にタオルを替えていただくようにしています。やはり、小児の在宅人工呼吸管理の場合、気管切開チューブの閉塞は非常に危険ですので、加温加湿をしっかりと行う必要があります。対策ですがご質問をされた方が行っているように、回路にスリーブを巻く対策、あとは、結露が出にくいように夏場のクーラーで室温を下げすぎない、冬場は暖房をして室温が下がらないようにするといった対処しかありません。また、加湿水をたくさん使用しますので、自動給水システムを使用されると介護者の労務軽減に繋がります。
NPPVの加温加湿について質問です。当院では加湿用水や加湿容器の汚染を懸念し積極的な加湿は行っておらず、室温を上げて飽和水蒸気量を高く保つことを第一選択としております。在宅にて患者が清潔な加温加湿器、加湿用水の管理ができない場合、室温のみでの調整を行うことはありますでしょうか。またその場合推奨される室温はございますか。加湿する場合、加湿用水の交換頻度、加湿容器の洗浄頻度等もご教示ください。
ご質問ありがとうございます。NPPVの加湿については、基本的に人工気道(気管切開チューブ)を使用しないので、それほどシビアに管理しなくてもいいのですが、患者さんの口腔内の乾燥、のどの渇きの訴えがないように調整していただくとよいと考えます。「在宅にて患者が清潔な加温加湿器、加湿用水の管理ができない場合、室温のみでの調整を行うことはありますでしょうか。」とありますが、管理ができるできないでは無く、暖かい風が嫌だ、などの訴えがある場合は加温加湿器なしで使用しています。また、鼻マスクの患者さんの場合はほぼ加温加湿器無しで管理しています。「またその場合推奨される室温はございますか。」とのことですが、患者さんご自身がマスクを装着して不快と感じない温度にしていただくようにしています。冬場などは風が冷たくなるので、部屋を暖めていただき不快感の無い温度にしていただいています。「加湿する場合、加湿用水の交換頻度、加湿容器の洗浄頻度等もご教示ください。」については、加湿用水の交換頻度は毎回、残っている水を捨てていただき、新しく水を入れていただいています。継ぎ足しは禁止です。加湿容器の洗浄頻度はフィリップスのA40は毎日洗浄、それ以外の機器に関しては約2週間毎の回路交換時に洗浄しています。ただし、汚れているときは適宜洗浄していただくようにしています。