番外編:RSTとして働くということ RSTとして働くということ
2024年02月14日
千葉市立青葉病院
瀧口 恭男 様 吉岡 真弓 様 平野 充 様

2010年の4月に診療報酬改定で呼吸ケアチーム加算が新設されてから、10年以上が経過し、多くの施設でRSTが活動をされています。他のご施設のRST(呼吸サポートチーム)の活動がどのよう行われているか、今回は千葉市立青葉病院のRSTチームの3名の方におうかがいをしました。


千葉市立青葉病院

千葉市立青葉病院のRSTは、人工呼吸器離脱に関する相談のみならず、酸素療法など呼吸療法に関連した相談が、一般病棟看護師から多く寄せられるチームです。これらの相談に迅速に対応するために、RSTのメンバーでもあり、組織横断的な活動が許可されている集中ケア認定看護師のお二方が相談の第一窓口となり、RSTチーム内で必要なサポートを段取りするという体制がとられています。

RST活動

平野看護師:困りごとや不安に思った際に、いつでも相談を受け付けられる体制を整えられたらいいと思っています。最近ではHFNCに関する問い合わせが一般病棟でも増えており、使用法やケアに関して寄り添いながらともに進んでいます。

吉岡看護師:最新の呼吸療法に関する情報をRST通信として院内の掲示板に掲載しています。最新の情報を継続的に掲載することで、RSTの活動の活性化にもつながりますし、周りからもRSTが積極的に活動をしていると認識してもらえるので、続けています。
また、医療安全室とも連携し、呼吸療法に関するインシデント報告があった場合、マニュアルの確認や見直しと整理、最新情報の院内への伝達なども行っています。

瀧口先生:「ADLを低下させない酸素療法」を伝えていきたいと取り組んでいます。酸素飽和度90%を切ることを必要以上に恐れ、トイレに行くことを許可しない。または、ほんの30秒ほど酸素飽和度が90%を切ると過剰に酸素を投与するなど事例が見られることがありましたが、最近はADLを低下させずに対応をしていこうという考えの浸透がみられるようになっています。

ふたりの認定看護師のチームワーク

吉岡看護師:以前は、認定看護師に何かを相談する時には、既定の用紙に記載して提出する仕組みでしたが、それではタイムリーな介入ができないですし、もっと気軽に相談して欲しいということで、認定看護師がPHSを持つことになりました。

平野看護師:そこから電話がよくかかってくるようになりました。ただの「こんな人がいるんです」というようなものや、「HFNCを装着した人がいるんです」というような依頼もあります。しかし、その背景にはおそらく電話をかけた理由があると思っています。なので、直接何を求めて電話してるのか、きちんと話を聞き、1個ずつ拾っていきました。

吉岡看護師:そして、ベッドサイドで一緒に患者さんを診ながら直接やりとりをすることで、相手のレディネスも把握できますし、電話では伝えきれなかった小さな疑問や悩みに対してもアドバイスできるようになりました。やはり「分からないことは、なんでも聞いていいんですよ」という雰囲気作りが大事だと思っています。

平野看護師:例えば、実際の相談は、「なんか痰が出しにくい」というような、あいまいな質問が多いんです。

吉岡看護師:そうなんです。具体的に「こういうのを教えて下さい」というのは難しいんです。「分からないことが分からない、これであっているのか自信がない」といったような漠然とした不安があることが多いので、一緒にベッドサイドに行って「診る」というのが大切だと思っています。

平野看護師:ただ、「RSTに相談しにくい」っていうコメントもいまだにあるので、まだまだできることがあると話をしています。やっぱりそういう所を1つ1つ解決していかないといけないと思っています。

吉岡看護師:二人だからできることは、毎日相談できる相手がいること。スタッフからしてみても、何かあった時に認定さんに聞きたいって思った時に、どちらかが大体いるので、そこに相談できるというのはひとつ安心材料となっていると思います。あとは、多分私はどちらかと言うとガツガツ行くタイプ。平野看護師は慎重で冷静なタイプなのでバランスが良いんだと思います(笑)

RST活動で記憶に残っていることは?

吉岡看護師:3人一致で、COVID-19の際の取り組みです。

瀧口先生:COVID-19集中治療室が満床になり、11台の院内のHFNCの専用機がフル稼働の時期がありました。その際に終末期の患者さんをHFNCで管理するなど、COVID-19をきっかけに新たな広がりが出るようになりました。

吉岡看護師:ICUが満床になり感染症病棟でHFNCを装着した患者さんを診なければならなくなったのですが、病棟看護師からは機器に対する不安や、重症患者を看護する不安の声が多くあがりました。RSTとしては、HFNCの方が患者さんの快適性も良いし、少しでも早く早く導入したかったのですが、後になり何かあった時のバックアップ体制がないから不安の声が多くあがっていることがわかりました。
その後、勉強会をして実際の導入に付き添い、モニタリングのポイントも示し、腹臥位療法も一緒に取り組んだりと、感染症病棟のスタッフたちと導入から定着、離脱まで行えたのがいい機会になりました。

平野看護師:COVID-19状況下で、吉岡看護師も私も上司に相談し、実際の感染病棟に行かせてもらいました。そうすることで、現場で働くスタッフの皆さんが、なぜHFNCを怖がるのか、使用を躊躇うのかなどがわかってきました。そこで、丁寧にスタッフの皆さんと話し合いながら、患者さんの呼吸が楽になるように一緒に機械を使っていき、使用の浸透が進みました。

吉岡看護師:現場に出向くことは私たちにも新たな気付きを与えてくれます。ICUでは、人工呼吸器管理中の患者さんの鎮静下の腹臥位療法を行い、効果も感じていました。しかし、感染症病棟は意識下で患者さんを腹臥位にさせるので、患者さんが苦しみを訴え腹臥位を継続的にとるのが難しいなど、新たな問題が出てきました。私たちも想定はしていませんでしたので、スタッフと一緒に対応を考えました。と同時に、全ての質問が私たちに集まるように「何でも相談して」と伝えていました。そうして集まった質問を、RSTの他のメンバーと連携しながら適切に対処できるように、調整を行っていきました。

瀧口先生:初期のころ、HFNCはエアロゾルを発生させるという疑いがあり、入室を怖がるスタッフがいましたが、我々が率先して安全性を示すことでスタッフの恐怖心も薄れていきました。RSTが現場で先頭を走って見本を見せていった感じでした。

平野看護師:あの時期は、毎日のように新しい文献が発表され、それらを参照しながら根拠を持って対応ができたのもよかったと思います。

RSTの「楽しさ」

吉岡看護師:呼吸って看護の力が活かせるんです。先日のことですが、いつ挿管になってもおかしくないほど状態が悪い若い患者さんがいらっしゃいました。HFNCを使用しながら体位ドレナージを頑張っていたのですが、厳しい状況が続いていました。もう無理だと思い、先生に挿管のタイミングについて相談をしたら、「もうちょっと頑張ってよ」と、ピシャリと言われました。

瀧口先生:若い患者さんというのもあり、できる限り挿管を回避したく、本当にできることがもうないのか、もう一度考えるようにお願いしました。

平野看護師:先生からの言葉を受けて、改めてRSTと病棟のチームで今までの看護を見直し、話し合い、できることを洗い出しひとつひとつ取り組んでいきました。

瀧口先生:挿管か否かの決断を迫られた日から、10日ほどで挿管なしで酸素が外れました。

吉岡看護師:RSTと病棟チームで同じ方向を向けるようにカンファレンスしたのが一番よかったと思います。本当に、呼吸は看護の力でよくなるのだと思います。

今後の目標

瀧口先生:まだまだできることがあると考えています。酸素を吸入することさえできれば、寝たきりにならなくてよい患者さんもいますので、HFNCを使用しながらのリハビリなどにも取り組んでいきたいと考えています。

吉岡看護師:一般病棟のスタッフが、患者さんに適した酸素療法デバイスの選定ができるようになるために、酸素療法に関する知識の底上げや、フィジカルアセスメントスキルの向上を行っていきたいです。そのためにはRSTのサポート体制が重要だと思いますので、「どんな質問にも答えます」というスタンスで取り組んでいきたいと思います。

平野看護師: 在宅でのHFNCの活用なども考えるなど、より患者さんの質の向上のために、新しいことも柔軟に取り入れながら、よりよい呼吸のサポートをしていきたいと思います。
また、最終的には、スタッフが自ら判断をして呼吸療法に使用する機器の選定などを行っていけるようにしたいと思っています。例えば、HFNCの流量調整なども、呼吸状態をみながら臨機応変に設定できるようになれば、より患者さんのためになるとも思っています。そのために、今までよりも各病棟に出向き、サポートをしたいと思っています。

学会に参加されるお三方のお写真

学会に参加された際の3ショット

※当ページ内コンテンツの許可なき転載、複製、転用等は禁止